線維筋痛症の私が仕事を辞めるまで

「痛みや疲れを隠して、なんとか職場にいる」

「周りのスピードについていけず、自分を責めてしまう」

「休んだら迷惑をかける。でも、辞めるのも怖い」

こんな思いを誰にも話せずに、働いていませんか。

毎日を乗り切るだけで精一杯ですよね。私もそうでした。

こんにちは。横浜市都筑区・センター南で、痛みと疲労の専門 漢方相談「kampo香癒堂」を営む、久保田かおりです。

私自身も、線維筋痛症と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と診断され、今もこの2つの病気と付き合いながら暮らしています。前回の記事「線維筋痛症の初期症状、何科に行けばいい?」では、診断にたどり着くまでのお話をしました。

今回は仕事のお話です。

私は痛みを抱えながら、2つの仕事を辞めました。1つは辞めざるを得なかった仕事、もう1つは自分で辞めると決めた仕事です。同じ「辞める」でも、気持ちはまったく違いました。

そのときのことと、中医学の観点から今思うことをお話しします。

大好きだった仕事を、辞めざるを得なかった

空港のカウンターで搭乗券を手渡すグランドスタッフ
写真はイメージです

1つ目の仕事は国際空港のグランドスタッフでした。私は旅行も飛行機も大好きなので、この仕事は天職だと感じていました。

空港には、世界中からお客様がいらっしゃいます。当時は自動チェックイン機がなく、お客様一人ひとりのパスポートやビザ、航空券を確認していました。いろいろな国のパスポートを見られることも、楽しみのひとつでした。パスポートや飛行機には国ごとの香りがあって、お国柄の違いを感じました。日本の空港の中なのに、出国審査場を抜けると、そこから先はもう外国のような空気です。

仕事の流れは同じでも、お客様も起こる出来事も毎日違い、刺激的でした。天気や機材の都合で、遅れることも早く着くこともあります。みんなで力を合わせて定刻に出発できたときは、本当にうれしかったです。

ゲートに来られないお客様がいれば、広い空港の中をスタッフで走り回って探します。体力のいる仕事でしたが、それも楽しかったです。お客様との出会いも毎日の出来事も、一期一会でした。

26歳のとき、腰が痛くて病院に行くと「第5腰椎分離すべり症」と診断されました。グランドスタッフは立ち仕事で、肉体労働でもあります。2回入院しましたが痛みは治まらず、とうとうドクターストップがかかりました。大好きな仕事でしたが、辞めざるを得ませんでした。

痛みよりも、この仕事を続けられないことが悲しかったです。

飛行機の仕事以外は考えられず、ほかにしたい仕事も思い浮かびませんでした。

何より不安だったのは、世間とのつながりがなくなったことです。幼稚園から学校、そして会社へと、ずっとどこかに所属してきたのに、それがなくなってしまいました。

これからどうなってしまうんだろう。夜、ひとりで泣くこともありました。

「覚えられないのは、私だけなんだ」

ヘッドセットをつけてパソコンに向かう予約課のスタッフ
写真はイメージです

しばらく療養したあと、国際線の予約課で働き始めました。今度は座ったまま画面を見続ける仕事です。

予約番号はアルファベットと数字を組み合わせた6桁です。私はこの番号を一度では覚えられなかったので、みんなも同じだと思っていました。ところが一緒に働くうちに、周りのスタッフは一度聞いただけで覚えて、すぐに予約を開いていることに気づきました。

覚えられないのは、私だけなんだ。

そうわかったときは、とてもショックでした。

私は3桁を覚えるのがやっとで、体調がひどいときは2桁ずつ区切って入力するしかありませんでした。

また、お客様に搭乗時刻をご案内するときは、出発時刻から逆算してお伝えします。海外の航空会社も含め、世界各地の空港から出発する便を扱うので、出発の何分前に搭乗が始まるかは、航空会社や国によってバラバラでした。頭が回らない私は、メモ用紙に時計の絵を描いて確認していました。

さらに、画面を速くスクロールすると、目がついていけずに気持ち悪くなってしまいます。

周りのスタッフの作業スピードにもついていけませんでした。

線維筋痛症では、頭がうまく働かない症状がみられることがあり、「ブレインフォグ」と呼ばれています。当時の私は、ブレインフォグという言葉も、そういう症状があることも知りませんでした。このまま認知症になってしまうのではないかと、本当に怖かったです。

頭に霧がかかったような状態はその後も長く続きましたが、今ではその霧も晴れ、記憶力も戻っています。そのお話は、また別の記事でお伝えしますね。

3回休職しても、辞められなかった

予約課で働いた6年間は、働き始めた頃からずっと体調の悪い日が続いていました。まだ中医学を知らなかった私は、毎日のように痛み止めを飲んでいました。

正直なところ効いているとは思えませんでした。線維筋痛症では、一般的な痛み止めは効きにくいといわれています。それでも、ほかに頼れるものがなく、気休めでもいいから何かにすがりたかったのだと思います。

痛みがある中でも、職場ではできるだけつらさを顔に出さないように努めていました。でも、周りの人には気づかれてしまいましたね。

気を張っていたぶん、家に帰って緊張がほどけた瞬間、こらえていた痛みと疲れが一気に押し寄せてきました。

仕事のあとも休みの日も、「無理をして、翌日に仕事を休むことになったら」と思うと予定を入れられず、体調を整えることを優先していました。

※一般的な痛み止め(消炎鎮痛薬)は線維筋痛症に効きにくいとされていますが、薬の飲み方は自己判断で変えず、主治医の先生にご相談ください。

主治医の先生から何度もドクターストップがかかり、短い間に3回も休職しました。その休職中に、線維筋痛症とME/CFSと診断されました。それでも、私は辞めることができませんでした。

グランドスタッフを辞めたとき、世間とのつながりがなくなる不安を味わいました。あの思いをもう一度するのが怖くて、どうしても仕事を手放せませんでした。

ある日、お客様相談室に、お客様からお褒めのメールが届きました。本来ならとても光栄でうれしいことなのに、そのときの私は、以前のようにうれしさを感じられませんでした。目の前の仕事をこなすだけで手一杯で、お客様の言葉を受け止める余裕もなくなっていたのです。

余裕がなければ、お客様の立場に立つことも、気持ちをくむこともできません。

お客様のための仕事ができていない。このまま、ここにしがみついていてはいけない。そう思ったとき、ようやく自分で辞める決心がつきました。

主治医の先生に退職を報告すると、「ようやく辞めたか」と言われました。休職を繰り返してもなかなか辞めない私に、少しあきれながらも、ずっと心配してくださっていたのだと思います。

続けたい気持ちを残したまま辞めたグランドスタッフと、自分で辞めると決めた予約課の仕事では、同じ「辞める」でも心の中はまったく違っていました。自分で決めたからこそ、前に進むことができました。

中医学と出会い、あの頃を振り返ると

予約課を辞めたとき、主治医の先生から「これからは、自分の身体に合った働き方をしなさい。回復したら週2〜3日のパートくらいから」と言われました。

でも、グランドスタッフを辞めたときと同じように、この先どんな仕事に就けばいいのか考えられませんでした。

そんなとき、北京中医薬大学日本校の薬膳専科に入学し、中医学と出会いました。

線維筋痛症もME/CFSも原因がまだわかっておらず、根本的な治療法も確立されていません。でも中医学では、病名だけではなく、その人の身体の状態をみます。なぜこういう症状が起きているのか、中医学の考え方では説明ができ、初めて自分の身体に何が起きているのかが分かりました。

学んだことを毎日の食事に取り入れてみると、体調が少しずつ変わっていくのを感じました。食事でこんなに変わるとは思ってもみなかったので、驚きました。

この考え方が広まれば、私のように少しでも楽になれる人が増えるかもしれない。そう思い、次の仕事も決まっていないのに「私と同じような病気で苦しむ人の力になるんだ」と勝手な使命感に燃えて勉強していたのを覚えています。

中医学を学んでいた頃につけていた、体調の記録ノート(一部ぼかしています)
中医学を学んでいた頃につけていた、体調の記録ノート(一部ぼかしています)

中医学の講義で古典『黄帝内経(こうていだいけい)』にある「五労所傷(ごろうしょしょう)」という教えを聞いたとき、働いていた頃の自分を思い出してはっとしました。

むずかしそうな言葉ですが、意味はとてもシンプルです。

  • 長く見続けると、血を傷める(久視傷血)
  • 長く横になっていると、気を傷める(久臥傷気)
  • 長く座り続けると、肉(筋肉)を傷める(久坐傷肉)
  • 長く立ち続けると、骨を傷める(久立傷骨)
  • 長く歩き続けると、筋(すじ)を傷める(久行傷筋)

同じ姿勢や動作を休まずに続けすぎると、身体を傷めてしまうという教えです。立ち仕事や座り仕事そのものがいけないわけではありません。ときどき姿勢を変えたり、少し身体を動かしたりすることも養生のひとつです。

中医学では、身体の働きを「肝・心・脾・肺・腎(かん・しん・ひ・はい・じん)」の五つに分けて考えます(五臓=ごぞう)。西洋医学の肝臓や腎臓などと重なる部分はありますが、全く同じものではなく、もっと広い働きをさしています。たとえば「肝(かん)」には、肝臓の働きだけでなく、精神活動を安定させる働きまで含まれます。そして五つがお互いに支え合い、バランスをとることで、心身ともに健康が保たれると考えます。

「腎(じん)」は成長や発育、老化に関わり、生命力の源とされています。骨や身体の水分の調整にも関わっています。「脾(ひ)」は胃腸の働きに近く、食べたものを消化吸収して、元気や血のもとをつくります。手足や筋肉の働きにも関わっています。

振り返ると私の働き方は、まさに五労所傷の教えのとおりでした。

グランドスタッフは立ち続ける仕事で、腎と関わる骨に負担がかかります。予約課は座って画面を見続ける仕事で、脾と関わる筋肉と、血に負担がかかります。

痛みがあっても体調が悪くても無理を続けていました。以前ならできていたことができなくなった自分を、認めたくなかったのかもしれません。身体はSOSを出していたのに無理を重ね、痛みだけでなく、疲労やブレインフォグ、胃腸の不調、不眠まで悪化させてしまいました。

中医学から見た「痛み」のお話は、また別の記事でゆっくりお伝えします。

※線維筋痛症や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の原因は、まだはっきりわかっていません。ここでお話ししたのは中医学から見た身体への負担のことで、仕事や生活習慣が病気の原因だという意味ではありません。

働きながらできる養生は、毎日の一杯から

湯気の立つお茶と茶葉
写真はイメージです

働いていた頃の私は緑茶が大好きで、お茶といえばいつも緑茶でした。でも薬膳では、緑茶は身体を冷やす「涼性」の飲み物です。薬膳を学んでからは、身体の冷えが強いうちは、涼性の飲み物や氷の入った冷たい飲み物は口にしないようにしていました。

中国人の中医師の先生と食事に行くと、私の体質をわかってくださっているので、お冷やが出てくるとすーっと私の手元から遠ざけてくださることもありました。

今ではカフェインレスの緑茶など、涼性の飲み物も飲めるようになりました。養生は、そのときの体質や体調に合わせて、日々の暮らしの中で身体を整えていくことです。体質が変われば、養生も変わります。

毎日忙しく働いていると、自分の身体のために時間をとるのはなかなか難しいですよね。でも、職場で飲むお茶を体調に合うものにすることなら、今日からでもできます。ぜひ自分の身体をいたわってあげてください。

お茶の薬膳的性質と働き

お茶性質カフェイン薬膳での働き
紅茶温あり気分を落ち着かせ、のどの渇きをいやす。水分の巡りを良くする
ジャスミン茶温あり気の巡りと胃腸を整え、気分を落ち着かせる
ウーロン茶平あり消化を助け、水分の巡りを良くする。気分を落ち着かせる
黒豆茶平なし胃腸を整え、血を補う。血と水分の巡りを良くする
コーン茶平なし胃腸を整え、水分の巡りを良くする
麦茶涼なし身体の熱を冷まし、胃腸を整える。水分の巡りを良くする
緑茶涼あり身体の熱を冷まし、頭と目をすっきりさせる。のどの渇きをいやし、水分の巡りを良くする
はとむぎ茶涼なし水分の巡りを良くし、胃腸を整える。身体の熱を冷ます

※飲み物のお話は私自身の経験です。表の性質と働きは、中医学・薬膳の考え方としての紹介です。どちらも効果を保証するものではありません。体質やその日の体調によって、合うお茶は異なります。

※カフェインを含む飲み物は、眠りが浅い方や胃腸が弱い方は控えめにしてください。

あの頃の自分に言いたいこと

一度身体を壊した私だからこそ、無理を続けて働いていたあの頃の自分に、こう言いたいです。

無理をしないで。

頑張り続けて体調を崩すのはあっという間ですが、回復するにはとても時間がかかります。

働いていた頃は「私が休んだら、辞めたら、迷惑をかけてしまう」と思っていました。でも実際には、私が休んでも辞めても、仕事はちゃんと回っていきました。

続けるか、休むか、辞めるか。すぐには答えが出せないこともあると思います。

ひとりで抱え込まず、誰かに話してみてくださいね。

※この記事でお話しした体験は私個人のものであり、効果を保証するものではありません。

この記事を書いた人

← 香癒帖の記事一覧へ
ご予約・お問い合わせ